おいしい豆腐がみつからない。と知り合いがなげく。その方は自分よりふたまわりほど年上だが、昔の豆腐はそんなにうまかったんだろうか。いつも、スーパーで買った豆腐を無頓着に食べているが、本物はやはり違うのか?それとも単なる郷愁なのか・・・
考えてみると、豆腐は好きなのに、豆腐のことを何にも知らなかったことに気が付きました。これはいけない。ちらっと、ネットをみれば、最近の水っぽい豆腐は凝固剤のせいだケシカランというような記事もあります。本当のところどうなのか。そんなわけで、豆腐の製造技術とその歴史について調べてみました。
豆腐を作るには、まず、大豆から豆乳をつくります。その後豆乳から固形成分を取り除きます。この状態の豆乳は、ほぐれた糸状のタンパク質が水にとけた状態です。
日本の古来の製法では、この豆乳ににがり、つまり塩化マグネシウムを投入します。ここから、なぜにがりが大豆のタンパク質を固めるのかについてみていきましょう。
塩化マグネシウムは、水溶液中で塩素イオンとマグネシウムイオンに分かれています。マグネシウムイオンは元素周期表の左側の方(左から二列目)にあるのでイオンはプラスに帯電します。一方、タンパク質がもつカルボキシル基がマイナスに帯電しているので、これらにマグネシウムイオンがくっつきます。
さらにいうと、マグネシウムイオンが2価のイオンつまり「手」を2個もっているので、タンパク質同士をくっつけあうことでゲル状に凝固し(塩析)、豆腐になるというわけです。なんとも「リクツな」(金沢弁:巧みなの意)。
このように巧妙な仕組みでタンパク質を凝固させるにがりですが、反応が速すぎ、均一に凝固させるのが難しいのです。このため、にがりを使った方法では、豆乳とにがりを混ぜながら固まらせる作業が必要となります。そうしてできたおぼろ豆腐状のものから、固まらなかった部分「ゆ」を取り除き、穴のあいた型にいれて圧縮して作るのが、木綿豆腐です。また、型には木綿の布を敷いて「ゆ」を絞ることから木綿豆腐と現在はよばれます。
一方、絹こし豆腐は、にがりをいれた型に、熱い豆乳を勢いよく流し込み、その勢いで撹拌させてつくります。このような技術は、江戸元禄時代に考案され、今でも絹こし豆腐を発案した豆腐屋笹乃雪(東京都台東区)が現存しています。また、型には穴が開いていないので、「ゆ」はとりません。このため、豆乳全部が豆腐になります。というわけで、絹の布は使ってません。従来の豆腐に比べ口触りがなめらかなため、この豆腐を絹こしとよび、その反対に従来の豆腐を木綿とよぶようになったのです。
絹こしと木綿豆腐のいずれにしても、にがりを使った豆腐は、大豆の甘みをひきだし、とてもおいしいものになるといわれています。 このように、日本ではにがりを使った豆腐作りの技を培ってきたのです。
しかしながら、そんな状況があるとき一変します。
つづく。
昭和46年生まれ。神奈川県産。妻ひとり猫ひとり。高校時代は丹沢に通って荷揚げのバイトしていたおかげでカモシカのようだったが、それも昔の話。その後、生態学者を志し、大学でできるだけひとの役にたたない研究をしたいと思っていたもののかなわず今に至る。現在は、お米を生産する法人で働き、自然栽培米に関わっていたりする。IT企業でも数年働いており、そのときの経験を生かして、農業にIoTをDIYで導入する手伝いをしたいと思っている今日このごろ。また、生き物にはやさしいけど、ひとには冷たいよねという評価もあったりする。