前回までにがりにまつわる話をしてきたのですが、日本人が大切にしてきたにがりは、戦争のために取り上げられてしまったのでした。
にがりの代用品として使われたのが、すまし粉です。すまし粉は硫酸カルシウム、石膏と同じものです。すまし粉の起源は古く、中国ではにがりとならんで古くから豆腐に使われてきました。
すまし粉はにがりと同じように2価のプラスイオンとなるカルシウムをもっているので、これがマグネシウムと同様の働きをします。ただし、にがりよりも水に溶けにくいため、反応がゆっくりです。その結果、水持ちがよくなめらかな食感の豆腐になりますが、その分水っぽくなるのはいなめません。
このようなわけで、にがりの代わりにすまし粉が使われるようになったのですが、戦後にがりが復活するかといえばそうではなく、結局すまし粉が定着してしまいました。これは、にがり生産の再開が困難だったこととすまし粉の方が作業が簡単で歩留りもいいことが理由です。戦後の食糧難のときに豆腐はにがりでなくちゃなどとは言っていられなかったのでしょう。その後も高度経済成長のなかでにがりは忘れ去られてしましました。
にがりが復活し始めるのは、ようやく1980年代後半一億総グルメなどと呼ばれた時代になってからです。ちなみに、グルメ漫画「美味しんぼ」の連載開始は1983年でした。
つづく
昭和46年生まれ。神奈川県産。妻ひとり猫ひとり。高校時代は丹沢に通って荷揚げのバイトしていたおかげでカモシカのようだったが、それも昔の話。その後、生態学者を志し、大学でできるだけひとの役にたたない研究をしたいと思っていたもののかなわず今に至る。現在は、お米を生産する法人で働き、自然栽培米に関わっていたりする。IT企業でも数年働いており、そのときの経験を生かして、農業にIoTをDIYで導入する手伝いをしたいと思っている今日このごろ。また、生き物にはやさしいけど、ひとには冷たいよねという評価もあったりする。