豆腐のはなし(4)それはほんとに悪いのか

戦争によりにがりが失われ、豆腐が硫酸カルシウムで作られるようになったのですが、その後豆腐界にはさらなる技術革新が起こりました。新しい凝固剤、その名も、グルコノデルタラクトンです。いかにもおどろおどろしい名前なので、かなりやばい合成物質のように思うかもしれません。しかし、これは蜂蜜におおく含まれる物質で、ミツバチが体内で、 糖(グルコース)からグルコノデルタラクトンを作り出しています。なので、ハチミツ酸とも呼ばれています。

天然ならば安全だ。ということもありませんが、今回の場合、グルコノデルタラクトンのせいで危険な豆腐ができるということはないでしょう。豆腐に使うグルコノデルタラクトンはグルコースを発酵させて作るもので、まるっきり天然ということもありませんが。

さて、グルコノデルタラクトンは、にがりやさらし粉とは違って金属イオン(マグネシウムとかカルシウム)を持っていません。このため、全く違う方法で豆腐を固めます。

まえに、豆乳に含まれているタンパク質はマイナスに帯電しているといいましたが、これには但し書きが必要です。ふつう豆腐になる前の豆乳はpHが中性からアルカリ性になっていますが、この状態ではマイナスに帯電しています。一方、pHが酸性になるとタンパク質がもっているアミノ基のせいでプラスに帯電します。そして、酸性になるちょっと手前のところではプラスとマイナスが釣り合ってゼロになります(等電点)。この状態ではタンパク質同士が反発しあわないので、沈殿し凝固します。これを酸凝固といい、にがりによる塩凝固とはまったくことなります。

グルコノデルタラクトンを豆乳にいれるとグルコン酸に変化しpHを酸性に傾けます。そして、pH4.5くらいのとき等電点となり豆腐が凝固するわけです。すばらしい。このプロセスをみるとむしろにがりより安全?とも思えます。

グルコノデルタラクトンのすごいところは、豆乳がかなり薄くても豆腐になる。ということろこです。これを良い点とおもうか悪い点と思うかはむずかしいところですね。また、加熱するとさらに固まる性質があるので、冷えた豆乳を容器に封入してふたたびボイルすることで固まる。いわゆる充填豆腐をつくることができます。充填豆腐のおかけで豆腐の日持ちが格段によくなりました。これも善し悪しですが。

というわけで、グルコノデルタラクトン君はいがいと悪いやつではないということがわかります。なのですが、「やっぱりにがりだよね」という消費者のし好のため、最近は凝固剤にグルコノデルタラクトンを使った豆腐は少し減っているようです。

つづく

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